給与所得と事業所得の区分

給与所得 事業所得

所得税法上の所得区分は10種類ございますが、その中の給与所得と事業所得は明確に区分できてますでしょうか。

サラリーマンであれば「給与所得」、個人事業主(フリーランス)であれば「事業所得」となるのは明白かと思いますが、実は区分がとても悩ましい時がございます。

そこで、今回は給与所得と事業所得の区分の線引きについてまとめてみました。

本記事で分かること!
  • 給与所得と事業所得の概要がわかる
  • 給与所得と事業所得の区分の判断基準がわかる

目次

1. まとめ

結論から先に申し上げますと、給与所得、事業所得及びその区分のポイントは以下のとおりとなります。

  • 給与所得とは、端的に言うと給料や賞与のことをいう
  • 事業所得とは、端的に言うと個人事業主が当該ビジネスで稼いだ所得をいう
  • 事業所得と給与所得の線引きは、最高裁昭和56年4月24日の「弁護士が顧問先から受け取る顧問料」が参考になる
  • 「従属性」と「非独立性」の判断基準があるが、「非独立性」が重視されているように見受けられる
  • 給与所得と事業所得の区分には様々な指標があり、総合的に所得区分を判断することになる

2. 給与所得とは

給与所得とは、端的に言うと給料や賞与のことをいいます。(所得税法第28条)

なお、役員等の個人的費用を会社が負担した場合はその費用が給与所得に該当することとなっており、例えば、社宅家賃や水道光熱費等を会社が負担した場合は、原則給与所得に該当します。
ただし、社宅家賃については、役員や従業員から一定額を会社が受け取っている場合は、給与所得から除外されます。(別記事で社宅家賃の取扱いを記載しようと思います。)

給料や賞与はもちろんのこと、役員等への経済的利益の供与も給与所得に該当してきますので、注意が必要です。

(給与所得)
第二十八条 給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。
2 給与所得の金額は、その年中の給与等の収入金額から給与所得控除額を控除した残額とする。
3 前項に規定する給与所得控除額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額とする。
一 前項に規定する収入金額が百八十万円以下である場合 当該収入金額の百分の四十に相当する金額から十万円を控除した残額(当該残額が五十五万円に満たない場合には、五十五万円)
二 前項に規定する収入金額が百八十万円を超え三百六十万円以下である場合 六十二万円と当該収入金額から百八十万円を控除した金額の百分の三十に相当する金額との合計額
三 前項に規定する収入金額が三百六十万円を超え六百六十万円以下である場合 百十六万円と当該収入金額から三百六十万円を控除した金額の百分の二十に相当する金額との合計額
四 前項に規定する収入金額が六百六十万円を超え八百五十万円以下である場合 百七十六万円と当該収入金額から六百六十万円を控除した金額の百分の十に相当する金額との合計額
五 前項に規定する収入金額が八百五十万円を超える場合 百九十五万円
4 その年中の給与等の収入金額が六百六十万円未満である場合には、当該給与等に係る給与所得の金額は、前二項の規定にかかわらず、当該収入金額を別表第五の給与等の金額として、同表により当該金額に応じて求めた同表の給与所得控除後の給与等の金額に相当する金額とする。

引用元:所得税法 | e-Gov法令検索

3. 事業所得とは

事業所得とは、端的に言うと個人事業主が当該ビジネスで稼いだ所得のことをいいます。(所得税法第27条)

なお、個人事業主のビジネスが不動産の賃貸や株の売買等に該当する場合は、事業所得ではなく、他の所得区分になりますので、注意が必要です。

(事業所得)
第二十七条 事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。
2 事業所得の金額は、その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする。

引用元:所得税法 | e-Gov法令検索

4. 給与所得と事業所得の区分

まず、サラリーマンであれば、勤務する会社からの給与は給与所得に該当しますので、迷うことはないかと思います。

しかし、会社Aが会社Bを設立し、会社Aから会社Bの従業員に外注として業務をお願いしているケースはどうなるでしょうか?
その会社Bの従業員が収受する外注費は事業所得になるでしょうか?あるいは、給与所得になるでしょうか?

そもそも、事業所得になるのか、給与所得になるのかの違いですが、当該外注費が、事業所得になれば、給与所得控除はとれないものの、事業に係る経費を当該外注費から減算することができます。
また、会社Aが支払う外注費が消費税法上の課税仕入れに該当することにより、仕入税額控除が取れます。(給与に該当すれば、不課税なので、仕入税額控除は取れません。)

上記のとおり、一般的には事業所得の方が節税メリットがあるといえます。その他のメリットもございますが、ここでは省略致します。

ここで、事業所得と給与所得の線引きですが、判例を参考に検討してみましょう。

それは、最高裁昭和56年4月24日の「弁護士が顧問先から受け取る顧問料」について、事業所得か給与所得のいずれに該当するか争われた事案がございます。

これは、ある弁護士Cが自己の法律事務所を有しており、クライアントからの法律相談を受け顧問料を毎月定時・定額で受け取っていたところ、事業所得ではなく給与所得として、弁護士Cが確定申告を行っており、事業所得になるのか給与所得になるのかが争われた事案となります。なお、当該クライアントと弁護士は雇用契約を締結していなかったようです。

本事案は地裁・高裁ともに、「事業所得」と判断され、弁護士Cが上告したことによるもので、最高裁の判決も変わらず、「事業所得」にあたるのが相当とされました。

本判決に、事業所得と給与所得を線引きするためのヒントが以下のとおり記載されております。

事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、
これに対し、給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお、給与所得については、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうか重視されなければならない。

引用元:裁判所リンク:https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=56332

つまり、「従属性」と「非独立性」が判断基準とされているようです。

「従属性」とは、従業員という立場であれば給与所得に近いと判断できる指標ではございますが、上記のとおり、雇用契約がなくとも、「何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供が」あれば、給与所得になるようですので、「非独立性」が重視されているように見受けられます。

「非独立性」とは、必ずしも従業員としての従属的な地位である必要はなく、使用者との関係において独立した立場かどうかを判断する指標となります。

また、東京国税局より、事業所得と給与所得の区分の参考として、給与所得と事業所得の判定検討表をあげておりました。

ここには、様々な指標が記載されており、総合的に所得区分を判断することになるようです。

あげられているものとしては、例えば、「雇用契約又はこれに準ずる契約等に基づいているか」、「使用者の指揮命令に服して提供した役務か」等となります。

結果的に、会社Aが会社Bを設立し、会社Aから会社Bの従業員に外注として業務をお願いしているケースは総合的に検討する必要がございますので、一筋縄ではいかないようです。。

以上、となります。
本記事が皆様にとって有益であれば何よりでございます。

ご拝読ありがとうございました。

※本記事の内容は、公開時(上記をご確認ください)の法令等に基づくものですので、ご留意ください。

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